そうして温まった会場を多彩な動きと声音で更に盛り上げるのがおばか屋敷。『ナイゲン(全国版)』のキャスト発表後に『15 Minutes Made Volume 12』で「HNG」を観たときは「あの体格でおばか屋敷を演じたら事故が起きそう、学校机のひとつやふたつ軽く吹っ飛ばしちゃうんじゃ?」と心配になったのだが、蓋を開けてみれば全ては杞憂で起きたのは笑いの波だった(2013年にはお客さんからおばか屋敷の恋路を応援するツイートが寄せられたそうだけれど、今年はどうだったのだろう)。
海のYeah!!は表情・動き・台詞回しからまさかのダジャレに至るまで、あらゆる手段で終始客席を沸かせていた。千秋楽、ツアー全日程中最長(推定)の「サーーーーーー……ッ」にコータさんの気迫を見た。
今思えば9月の稽古開始直後は、Iは地球をすくうと海のYeah!!とおばか屋敷がチームプレー(?)でアイスクリースマスを追いつめる展開になるとは想像もしていなかった。Iは地球をすくうは熱く海のYeah!!は自由奔放におばか屋敷はねちっこく、広い舞台を目一杯使ってのびのびと動き回り、この日も大いに笑いを呼んでいた。
「どさまわりに話しかける退出直前の場面でアイスクリースマスはどうして戸惑いを滲ませるようになったのだろう」と全国版が始まってからも随分長いこと疑問に思っていた。昔のアイスクリースマスはもっと突き放すような口調だったのに、と。しかし考えてみれば新旧アイスクリースマスは他者に対する姿勢が全く異なる。新生アイスクリースマスは休憩中に海のYeah!!と雑談したりする。イヤホンと文庫で周囲をシャットアウトすることはない。どさまわりに対しても全くの無関心ではなかったからこそ、最後に戸惑いが残ったのかも知れない。獲物を狙う虎のような姿にばかり目が行って想像力が働かなかったことが今更ながら恥ずかしい。
花鳥風月のキャスト変更を知ったときは、先述した2013年版アイスクリースマスのイメージもあって「なぜこの配役?」とまず思った。けれど稽古が始まってから、承認を拒否したどさまわりに語りかける場面を実際に目にして「そうだった、『エクストリーム・シチュエーションコメディ(ペア)淺越・塩原組』でドンを毅然と追い返すブレンダは淺越さんだった」と気づかされた。「理屈っぽい」から「論理的」へ。ツッコミも入れるし途方に暮れたりもする。先代アイスクリースマスとも先代花鳥風月とも異なる新しい「花鳥風月」として、劇中で確かな存在感を放っていた。
試演会・京都公演よりも上擦った声で繰り返される議長の「話し合いましょう」に観戦中は笑うばかりだったけれど、対話は戦争回避の基本だったと終演後に思い至った。一見頼りないようでいて、「戦争とかにならないように」という方針は終始一貫していたのだ。
千秋楽ではこれまで以上にどさまわりの独演会が心に沁みた。去年の文化祭から(あるいは入学以来?)ずっとこれほどのもどかしさや憤りを抱えているのはさぞかししんどかっただろう、と思わずにはいられなかった。
そして夕焼け色の光の中、どさまわりの悔し涙も、議長と対峙する姿も、会議終了後に再び訪れる「2人+1人の時間」も、一段と輝いていた。
座組のみなさま、関係者のみなさま、稽古場や会場から楽屋まで潜入させていただきありがとうございました(最後の潜入記がどうにも締まらないことになってしまい申し訳ありません)。また特に今回の企画を任せて下さった冨坂さんと「番記者」の名付け親である塩原さんに、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。
9月の初めから本番までの2か月あまり、空飛ぶじゅうたんの端っこに必死でつかまっているような心境でした。
それでもさすがは魔法のじゅうたん、振り落とされないようしがみついていただけでも、見たことがないような景色をいくつも目にすることができました。
特設サイトをご覧下さった方々に少しでも多くお届けできればと考えていましたが、いかがでしたでしょうか?
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
〈おまけ:鴻陵祭での甲田さん・塩原さん・津和野さん。使いどきを完全に逃してしまったもったいない写真〉